伊豆半島ジオパークでは、静岡県温泉協会と共に、各地の温泉のあれこれを話題として取り上げるトークイベント「おんせんはたいへん」を毎年開催しています。
温泉協会さんとは、今年は修善寺温泉でやろうということで一致。海外からの来訪者が目に見えて増える中、インバウンドをテーマとして扱うことにしました。
まず相談に伺ったのは、温泉協会修善寺支部長であり修禅寺の門前茶屋の主、原京さん。優しく鷹揚な雰囲気を持つ方で、写真や資料を広げて原さんが見守ってきた温泉場の話をしてくれました。最近では日本人より訪日客が多いくらいという原さんのお話の中に、共同風呂の新しい活用をしているゲストハウスの話がありました。
それがホステルノット。オーナーの山本涼平さんはキラッとしたまなざしで、修善寺を旅人の目的地にしたいと語ります。温泉場生まれのデザイナー、勝野美葉子さんは、おしゃれで魅力的な世界をまとった人。コミュニティを大事にしながら来訪者にも楽しんでもらうためのアイデアを練っています。そして異文化からの視点を持つ人として、イタリア人ながら伊豆市の地域おこし協力隊をしているマルコ・ファヴァロさんにもお声がけしました。マルコさんとは午前中の待ち合わせだったにもかかわらず、「今日すでにミーティングを二つ済ませてきました!」との笑顔。温泉場の景観や欧米との文化的ギャップなどについてお話が止まりません。
実は当初、修善寺温泉の特徴を伝えるための英会話教室のようなものを考えたのですが、皆さんのお話を聞くうちに、それどころではない、地域の人たちが持つ温泉場への思いを共有する場が必要だと感じられてきました。イベントが改めて温泉場のあり方について整理する機会となれば、結果訪れる人も尊重したくなる場となるのでは、と。こうして登壇者と中身が固まり、会場も修善寺温泉のランドマーク、修禅寺に決まりました

ザ・仏教の空間でのトークの様子。定員を上回る多くの方においでいただきました。
イベント当日は修禅寺の厳かな雰囲気に圧倒されながらスタート。ザ・仏教の世界感の中で、外国の方六名を含め、三十五名の参加者が登壇者の話に耳を傾けました。
第一部は原さんから修善寺温泉の概要と歴史、マルコさんから西洋の温泉事情を紹介。かつての修善寺温泉は住民が行き交う町だったこと、マルコさんの故郷パドヴァの温泉場が景観の美化に取り組んだ結果、活気を取り戻したことが印象的でした。
第二部は座談会形式。マルコさんから日本の温泉入浴で困ったことを伺いました。日本人が開放的と捉える空間が、水着不着用により外国の方は戸惑いを感じること、性別の違う家族には細かな入浴マナーを説明できなくて不便であることを教えてもらいました。こうした理由で温泉から一歩引いてしまっているかもしれない訪日客に対して、共同風呂を活用したサービスを提供するのは山本さんの宿泊施設。個室のような風呂が好評で、共同風呂の組合員さんと居合わせても、その後一緒に食事するなど、思いがけず異文化交流になっているそうです。修善寺に日本の温泉文化を発信する好事例があることを誇らしく思いました。

修禅寺の入り口での集合写真。このあと皆で町歩きに出掛けました。
修善寺は伊豆半島の中でも伝統的な景観が残る温泉場。景観条例により、行政や地域住民が一丸となって町を守っていく必要があるといいます。統一感のある町並みは訪日客に魅力的に映るだけでなく、後世の財産になっていくことでしょう。
そういった意味では、地域が受け継いできた文化やそれを守る地域力も大切。勝野さんは、人が溢れる町になってほしい、この町に長く住み続けたい思いから様々な地域活動をされています。修善寺温泉を訪れた文豪エピソードや地域の記憶を資料に残し冊子を制作したりと、地域のアイデンティティを掘り起こし活用することが、他者の取り組みにも繋がっているそう。今後の展開が楽しみです。

限りある温泉資源を使いすぎないための工夫、集中管理の設備を見学。
勝野さんの通勤路を体験。畑や民家、お茶屋さんなどの間を通る修善寺の裏道。

ジオパークは住む人の思いが地域の未来を形にしていく場でもあります。この熱い修善寺温泉場から目が離せません!

(一社)美しい伊豆創造センター
塚本 春菜・佐々木 惠子