湯けむり談話室メモ:vol.01 -湯治文化の変遷と湯治客のごはん事情・芥川龍之介のモダンな朝食

伊豆市のコミュニティーFM・FMISの番組「修善寺温泉 湯けむり談話室」の構成台本用のメモを、参考資料のリンクなどとともに記録に残しています。

メインパーソナリティ:勝野美葉子(修善寺燕舎)
サブパーソナリティ:鈴木創・飯島渉琉(FMIS)

湯治文化の変遷①

湯治って?

湯治とは、温泉に入って、病気の治療や健康の回復を図ること。時代や地域、それぞれの温泉によって違いはあるが、湯治を行う期間や入浴作法などはおおむね決まっていた。eg.「湯治は、七日一回り、三回りを要す」、7日で1周する入浴回数のパターンを3回繰り返すと良いという考え方。(1日目は入浴1回、2日目は2回、3日目は3回、4日目は休養。5日目から3回、2回、1回と減らしていく。)

聖徳太子も湯治をしていた?

596年に「伊豫温湯(いよのゆ)」(現在の道後温泉)へ。現存はしていないが、石碑も建てた。日本書紀にも、天皇や皇族が、「伊豫温湯(いよのゆ)」 や「紀温湯(きのゆ)」(現在の白浜温泉)へと長期間湯治に出かけたという記述あり。

平安時代)
公家、僧侶、武家といった各階層の人々に、湯治が徐々に広まる。

鎌倉時代の初め)
禅宗が広まって以来は禅僧も湯治を行う。湯治の合間に温泉地近辺の名所を歩いたり、詩会などの催しを開くこともありました。同じく湯治に訪れる公家の人々などとの交流もあいまって、温泉が文化的な社交の場として機能する一面もあったらしい。

戦国時代)
戦国大名たちは自らの領内に温泉を整え、合戦で傷を負った兵の療養に活かしたといわれている。

湯治文化の変遷②

庶民への普及と学問としての盛り上がり・娯楽を含む短期の観光旅行へ

江戸時代)
都市部の庶民まで温泉の利用が普及。温泉案内の書物や図版が出版されるようになり拍車をかける。湯治、転地療養、物見遊山(ものみゆさん)の目的。

江戸時代後期)
伊勢参りなどの途上で立ち寄る団体客をはじめ、ごく短い滞在で済ませる旅客が増加。

当時は、旅人と湯治客の宿泊施設が分けられていた。(旅人は宿場町の旅籠 (はたご) に、湯治客は温泉宿に。旅人が温泉宿に1泊2日で泊まることは許されず、また旅籠に連泊することは、病気などのやむを得ない理由がない限りは認められませんでした。温泉宿は、湯治目的の長期滞在者だけの宿泊施設だった。)

スタイルの変化で「一夜湯治」も事実上公認され、湯治場だった温泉地が観光地化していく。

+温泉の特徴とその良し悪しを論じたり…学問としての盛り上がりをみせる。

明治時代)
温泉は行政の管理下に置かれる。温泉の成分を分析などをすすめ、効能を追認。交通網の整備、メディアの発達で、人々も娯楽を求め始め、湯治場から観光地・保養地に変化。
湯治している間の食事
江戸時代)湯治客の自炊が一般的。明治時代以降も同じく。食材は持ち込み、宿屋に物売りが来たり、近場で購入して自分で料理する。お客さんが自炊で調理した料理を交換することも。

大正時代)
「旅籠式」と「自炊式」の2通り。旅行者が好きな滞在方法を選択できた。旅籠式には「宿賄=価格に応じて旅館が定めた料理を2食もしくは3食提供」と「伺ひ賄=旅行者の好みをに応じて、1日3食を提供する形式」。宿泊が短期化していくと、次第に1泊2食付きのスタイルに。*温泉地滞在における「食」の役割とその変容─近世から近代にかけて─(内田 彩/温泉地域研究 第29号)

芥川龍之介の食事事情

長期滞在大正14年(1925年)の4月。修善寺駅が開業した翌年、新井旅館の月の棟で1ヶ月ほど過ごす。

朝 牛乳一合、玉子一つ、バナナ三本、珈琲
晝 茶碗盛り或は椀盛り さしみ
晩 同上。外に生椎茸、蕗の煮付け。
晝と晩とは違ふ事もあるが大體こんなものを食つてゐる。食後角砂糖三つか四つ。こいつは癖になつた。菓子など菓子屋の前を通っても買ふ気にならん。

ぶらり文学散歩:芥川龍之介編 案内人・勝野美葉子
ぶらり文学散歩:芥川龍之介編 案内人・勝野美葉子
芥川龍之介が修善寺に長期滞在したのは大正十四年(一九二五年)の四月のこと。修善寺駅が開業した翌年、新井旅館の月の棟で一ヶ月ほど過ごしました。 芥川が滞在中に書い.....

参考・出典資料:
・国立国会図書館 本の万華鏡, 第23回 本から広がる温泉の世界
https://www.ndl.go.jp/kaleido/entry/23/1.html
・温泉地滞在における「食」の役割とその変容─近世から近代にかけて─(内田 彩/温泉地域研究 第29号)
https://onsenmeeting.com/archives/4668

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修善寺温泉・住民発のローカル文芸マガジン『湯文好日』編集部です。様々な文芸作品を通じ、 季節や時代を超えて、 修善寺温泉を楽しんでいただけるようなコンテンツを発信しています。

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