放送日:2025年2月28日
テーマ:夏目漱石と修善寺温泉
伊豆市のコミュニティーFM・FMISの番組「修善寺温泉 湯けむり談話室」の構成台本用のメモを、参考資料のリンクなどとともに記録に残しています。
メインパーソナリティ:勝野美葉子(修善寺燕舎)
サブパーソナリティ:鈴木創・飯島渉琉(FMIS)
過去に、芥川龍之介、江戸川乱歩を取り上げましたが…今回は、改めて、夏目漱石と修善寺温泉の基本の話、個人的に気になった療養食事情のお話をしていきます。
夏目漱石 基本情報
漱石は、1867年2月9日、現在の新宿区喜久井町(江戸・牛込馬場下横町)に生まれます。東京帝国大学英文科卒業後、中学高校の教師を経てロンドンへ留学。帰国後は、小泉八雲の後任として母校の英文科講師を勤める。
高浜虚子の薦めで筆を執り、38歳の時に『吾輩は猫である』で作家としてデビュー。その後、40歳で東京朝日新聞社に専属作家として入社し、新聞紙上で『三四郎』『それから』『門』などを連載。
修善寺を訪れたのは、43歳の時。『門』の執筆中に胃潰瘍を患い、医者の勧めで療養生活のため修善寺に滞在することになる。
修善寺の大患
1910年(明治43年) 43歳
6月:胃潰瘍で長与胃腸病院に入院
退院後の8月6日、医者の勧めで療養生活のため来修。伊豆・修善寺の菊屋旅館に滞在。滞在した部屋を、「寝ていると頭も足も山なり。好い部(ぶ)ならん」と 、「修善寺日記」に残している。
8月:療養中に胃疾患になり、8月24日夜には800gにも及ぶ大吐血を起こし危篤状態に陥る。脳貧血から意識を失うという危険な状態に陥った。駆け付けた医師たちが十数本のカンフル注射をして一命をとりとめた。
これが文学史にも残る「修善寺の大患」と呼ばれる事件。(芥川龍之介をはじめ、お見舞いの手紙が寄せられている。) 闘病期間は2ヶ月に及び、東京への帰還が許されたのは10月11日のこと。
滞在中の日々を記録した「修善寺日記」や、明治43年10月29日から『朝日新聞』に連載した随筆「思ひ出す事など」から、滞在時の様子や心境を窺い知ることができる。
「修善寺日記」/「思ひ出す事など」
『現代日本文学全集』第19篇 (夏目漱石集),改造社,昭和2. 国立国会図書館デジタルコレクション
「思ひ出す事など」青空文庫ver.
危篤状態から回復した頃に食べていたもの
大量吐血の4日後、まだ体も動かないうちから「豆腐や雁もどきが食べたい」と言い、その2日後、ようやく手が動くようになると「瓜もみか何かを」食べたいと言って鏡子に笑われます。
吐血から三週間は鏡子が鶏肉を湯煎して作るスープや重湯、葛湯など、液状のものしか食べさせてもらえず、献立を考えることを楽しみに過ごしてきた漱石ですが、9月13日についに固形物が許可されます。
(引用:新宿区立 漱石山房記念館 《通常展》テーマ展示 漱石・修善寺の大患と主治医・森成麟造のみどころ(その4)| https://soseki-museum.jp/blog/blog_soseki/9674/)
徐々に回復していく中で、オートミール、ソーダビスケット*などを食べていた。(*ソーダビスケット:小麦粉を牛乳、重曹を入れ、柔らかくしたもの。)
漱石が滞在した「梅の間」と「漱石の間」
長らく養生した部屋は、菊屋旅館本館二階の間。修禅寺正面に位置していたが戦後解体され、「虹の郷」に移築。現在は、「夏目漱石記念館」として公開されている。現在の菊屋は別館にあたり、漱石が明治43年(1910年)8月6日に投宿した部屋「梅の間」は、現存していて、宿泊も可能。
夏目漱石記念館|虹の郷内 日本庭園エリア
〒410-2416 静岡県伊豆市修善寺4279-3
入場料 ¥1,200(伊豆市民は無料)
https://maps.app.goo.gl/NzAGxHWwJAaKYcG6A
修善寺漱石の会
住民有志で「修善寺漱石の会」という愛好会がつくられ、2018年・漱石の生誕150年の節には、菊屋館の跡地に句碑を建立。
修善寺の大患から回復した際に読んだ句(「生きて仰ぐ 空の高さよ 赤蜻蛉」)が、地域の切り絵作家・水口ちはるさんの作品とともに刻まれている。


漱石がお供に選んだ本は…
W・ジェイムズ著『多元的宇宙』。
8月7日の時点では、「何だか意味が分からず」と日記に記しているが、危篤状態を乗り越えたのちに読み進め、9月23日には「午前ジェームスを読み了(をは)る。好き本を読んだ心地す」と記している。
のちに書いた「思ひ出す事など」には、「余の病中に、空漠くうばくなる余の頭に陸離りくりの光彩を抛なげ込こんでくれた」と振り返っている。
また、小説のような哲学を書くと評しながら、以下のようにも記している。
ジェームス教授の哲学思想が、文学の方面より見て、どう面白いかここに詳説する余地がないのは余の遺憾
とするところである。また教授の深く推賞したベルグソンの著書のうち第一巻は昨今ようやく英訳になってゾンネンシャインから出版された。その標題は Time and Free Will(時と自由意思)と名づけてある。著者の立場は無論故教授と同じく反理知派である。
余談:夏目漱石ファンが、来週韓国から修善寺に遊びに来る
夏目漱石が大好きで、元々は「坊っちゃん」ゆかりの愛媛県・松山を候補にしていたけれど、最近、韓国人観光客がすごく増えているそうで…(多分、千と千尋のモデルになったという噂の道後温泉本館が修復工事を終えて、約5年半ぶりに営業を再開したから?)
そんな話を偶然聞いて、修善寺をすすめてみたら、東京からの近さ、京都のような街並み、歩いて回れるコンパクトさから即決してくれた。
文芸でのまちづくりの可能性を感じるので、歴史的な出来事にあぐらをかいていないで地域内でコンテンツを増やしていけたらすごくいいなと思った。

ちなみに…燕舎では、夏目漱石と修善寺の風景をモチーフにした、110円切手と切手風キーホルダーを制作、絶賛販売中。
110円切手:
https://store.tsubame-sha.net/items/80555505
切手風キーホルダー:
https://store.tsubame-sha.net/items/81330868
[…] FMIS・湯けむり談話室メモ:vol.04 – 夏目漱石と修善寺温泉放送日:2025年2月28日テーマ:夏目漱石と修善寺温泉 伊豆市のコミュニティーFM・FMISの番組「修善寺温泉 湯けむり談話室」の […]