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伊豆文学まつりレポ#01 読書会:午前の部 夏目漱石「思い出すことなど」

2024年3月23日(土)に伊豆文学まつりを開催しました。伊豆文学まつり午前の部の様子をレポートします!

「伊豆文学まつり」とは、伊豆にゆかりのある文学作品や文豪の魅力を伝える朗読会やまち歩き、講談、公演などの様々なイベントの総称です。市内の各地域で毎年開催されています。

雨の修善寺

当日の修善寺温泉は雨。ざあざあというよりはしとしとと降る大人しい雨。みなさんご存知の通り、雨と読書は相性がよい。晴耕雨読。雨の日には本を読めと昔の人も言っている。午後からの読書会のお散歩企画は中止になってしまうし、会場「カフェテラスTenn.」の足湯テラスも楽しめない。それでも雨はわたしたちの初の読書会開催を祝福しているようだ。

課題図書:夏目漱石「思い出すことなど」

午前の部の課題図書は、夏目漱石の「思い出すことなど」。他の読書会のように朗読なんぞ、と思い至ったものの、課題図書の難易度が高く、漢字が読めない、漢文が読めない、当て字が難解、となれば、朗読は断念することにして、みなで黙読。30分ほど「思い出すことなど」を読み、メモ紙に気が付いたことなどを書き留めて、思い思いの時間を過ごした。課題図書は文庫本で10ページほど。30分もあれば時間を持て余すほどで、かえってそれがよかったと思う。

読み終わった後、みんなで思ったことを思いついたまま共有する。漱石の文章は難解なので、さらっと読むと何の話だったかつかみどころがなく読み終わってしまう。30分という少し余るくらいの時間でもう一度読み返すことで新たな発見があったという参加者の方が多かった。

今の若い人たちは、ということを言い出すと、私ももうそんな歳になったのだと感慨深くなるが、映画やドラマを倍速で見たり、音楽や歌に至っては、サビだけを聞いたり、サビだけを楽しむサビだけカラオケなんかがあったり、エンターテインメントにもタイムパフォーマンスを求める傾向があるらしい。分かりやすいストーリー、圧巻のどんでん返し、ポップでファストなSNS的感想共有。こんな効率至上主義の世の中では、漱石の難解な文章は読んでもらえないのでは、と余計な心配をしてしまうくらいだ。

そんな世の中で、文庫本にして10ページの文章を30分という余裕のある時間の中で、ページを行きつ戻りつ、文章を言葉にほどき、ゆっくりとかみしめながら、自分自身とむき合うことに費やす。なんて贅沢な時間なのだろうと思った。30分という時間がなければ、一度読んで「うーん」となって終わっていたかもしれないが、今回の読書会では、もう一度読み直してみよう、と思って何度もページを繰っていた。その時間がとてもよかったと思う。

参加者の感想

ここで参加してくださった方の感想を一部紹介します。
【好きなシーン、表現、考え、など】
・「氷(アイス)クリーム」という当て字。
・「余は、実に三十分の長い間死んでいたのであった」キャッチ―な文章。物語の帯になりそう。
・「硝子の中に湾曲した一本の光が、線香煙花(はなび)のように疾(と)く閃(きら)めいた」の表現。
・漱石が寝ている横で先生たちが病状をドイツ語で話している内容を漱石が理解して腹を立てている所。
(ここから展開)
→漱石がドイツ語を理解することを医師たちはわかっていたのでは?
→漱石に知られたいのではなく、漱石の家族や周りの人たちに知られたくなくてドイツ語で話したのでは?

【面白かったところ】
・病気を通じて、ドストエフスキーの話に展開していくところ。
・「余は何より先にまあ可かったと思った」という状況に反して深刻さのない表現。
・急な会話文の挿入。
・登場人物の「雪鳥(せっちょう)君」の名前が風流で好き。
・病院食のことこまかい描写。よっぽどいやだったのね。

【みんなに意見を聞いてみたいところ】
・漱石の文章が難解で、気を抜くと読み流してしまう。滑っていく感覚がある。
・ひどい体調の中、これだけ客観的に物事を捉えられるとは、相当に冷静な視点の持ち主のように感じた。
・暑苦しいとはいえ、妻に退いてくれと言えますか?
・度々、漢文や俳句が出てきた。漢文を読めたり、俳句を詠んだりする人たちはいつ頃までいたのか?
・ドストエフスキーのてんかんの話を知らなくても同じような感覚になったと思う?
→教養や知識があったからこのような大変な経験を乗り越えられたのでは?
→前向きになれたのはドストエフスキーのことを知っていたからだと思う。
などなど。

参加者の分だけいろいろな物語の切り取り方があって面白いですね。

読書メモはと進行のガイドには、移動式ブックカフェ「nosso nosso」作のシートやオリジナル本『修善寺妄想散歩帖』と『吾輩は〇〇である』を使わせていただきました。

読書会のハードル問題

今回は、いろいろな年代、いろいろなお仕事のみなさんが集まってくれました。ひとつの難解な物語がいろいろな側面を持つ私たちをつないでくれたと思います。「そういう捉え方もあるのか」「私もそこに引っかかった」「理系の人はそう感じるのか」など、多様性を実感できる時間となりました。読書会とは銘打ったものの、実際は物語を中心に据えて、自らのことを話す時間となりました。優れた物語がそれぞれの考え方や感じ方の特徴を理解する媒介役になってくれたと思います。「読書会」、楽しいのですが、ハードルが高く感じるという意見にも納得です。この楽しさを広めていけるように試行錯誤していきます。

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修善寺温泉・住民発のローカル文芸マガジン『湯文好日』編集部です。様々な文芸作品を通じ、 季節や時代を超えて、 修善寺温泉を楽しんでいただけるようなコンテンツを発信しています。

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