2025年11月9日、修善寺ハリストス正教会顕栄聖堂にて、講演会「建築と景観からみる修善寺ハリストス正教会」を開催しました。
この聖堂は明治末期に建てられた正教会建築です。全国的に見ても希少な、東方キリスト教文化と信仰を伝える聖堂として県指定有形文化財に登録されています。修善寺の落ち着いたまちなみの中に静かにたたずみ、現在も信徒さんたちの手で大切に守り継がれている建物です。
あらためまして、私たちは建築景観デザインM+Aです。湯文好日では連載コーナー「建築探訪」を担当し、修善寺のまちを歩きながら、建築や景観の視点からこの土地ならではの風景の魅力を探り、記事として紹介しています。
今回の講演は、「建築探訪」2025年春号にて修善寺ハリストス正教会を取材したことがきっかけで実現しました。ありがたいことに講演の依頼をいただき、記事の内容について教会にて直接お話しする機会をいただきました。取材を通して感じた、この聖堂の静かな存在感や、修善寺という土地との関係性を皆さんにお伝えしたいと思い、身に余るお話ではありましたが、お引き受けしました。
講演では、山田は建築の視点から、木村はランドスケープや景観の視点から解説を行い、二つの視点を行き来しながら、私たちなりの修善寺ハリストス正教会の魅力を読み解いていきました。
冒頭では、多くの人が修善寺に抱く「仏門のまち」というイメージに触れ、そうした場所に正教会の聖堂があることの意外性についてお話ししました。なぜこの地にハリストス正教会が建てられたのか、その成り立ちや歴史を紹介しながら、教会建築としての特徴を解説しました。
建築の話題では、設計を手がけたモイセイ河村伊蔵や当時の時代背景、全国に残る正教会建築の事例についても触れました。また、内部に設えられた聖障(イコノスタシス。天国への窓とも呼ばれる。)については、画家・山下りんが描いた聖障を取り上げ、日本人の感性と東方キリスト教美術が交わる点の面白さを紹介しました。
さらに、吉田絃二郎や竹久夢二など文学作品に描かれた修善寺ハリストス正教会や、地域の方の思い出話を紹介しました。修善寺教会は決して規模の大きな建物ではありませんが、地域の歴史や文化が凝縮された存在であり、小さな教会だからこそ持つ建築的な価値についてもお話ししました。

修善寺ハリストス正教会顕栄聖堂外観。
景観の話題では、修善寺の自然や街並みの中で、教会がどのように風景を形づくっているのかを紹介しました。温泉街の伝統的なまちなみに、異なる文化背景の建築が溶け込みながら独自の景観を生み出している点は、修善寺ならではの魅力だと感じています。
当日は、信徒の方々をはじめ、地域住民や建築・文化に関心を持つ一般の方など、約45名の方にご参加いただきました。「教会の存在を初めて知った」「教会に入ってみたかったので見学できて嬉しい」「多角的な視点で興味深かった」といった声も多く寄せられました。信徒の方からは「聖堂がこれほど人でいっぱいになったことはない」と驚きの声も聞かれ、関心の広がりを感じました。
参加者の中には郷土史研究をされている方や、かつて聖堂の維持に携わっていた方もおり、貴重なお話を伺う機会にも恵まれました。一方で、情報の整理や建物の維持につなげていくための課題も見えてきました。なお、今回の講演は静岡新聞に取材・掲載していただきました。
修善寺教会は2027年に聖堂建立115周年を迎えます。柏久保の教会は2029年に会堂建立120周年、伊豆教区としては2030年に開教150周年を迎えるなど、アニバーサリーイヤーが続きます。

講演会当日は多くの参加者にお越しいただいた。
聖体礼儀の後の蝋燭が灯る雰囲気のある聖堂で講演をおこなった。

建築は、その価値を知り、誇りに思い、使い続けていくことで生きた空間としての魅力が増していきます。今回の講演が、修善寺ハリストス正教会顕栄聖堂を「自分たちのまちの大切な存在」として見つめ直すきっかけになれば嬉しく思います。
建築探訪ではこれまでに、大和堂医院、茶庵芙蓉、花小道などの修善寺の建築を取材してきました。湯文好日2024年春号から2025年夏号にかけて掲載しています。ウェブ版の湯文好日からもご覧いただけますので、是非ご一読ください。
▼建築探訪コーナーの記事一覧はコチラ
https://toubunkoujitsu.shuzenjionsen.com/category/architecture-excursion
修善寺ハリストス教会では7月を除く毎月第2日曜日の9時から12時に聖体礼儀が行われており、その際はどなたでも内部を見学することが可能です(信徒の方々の大切な祈りの場ですので、節度をもっての見学をお願いします)